傷跡を消すクリームとは、傷跡を完全に消すのではなく、傷跡の赤みや盛り上がり・硬さ・色素沈着などを目立たなくことを目的とした外用薬・スキンケア製品の総称です。市販の一般医薬品・医薬部外品から、皮膚科・美容皮膚科で処方される医療用医薬品まで幅広い種類があります。
傷跡は皮膚が損傷を受けた際の修復過程でつくられる「瘢痕組織(はんこんそうしき)」です。
正常な修復が行われれば目立たない平坦な傷跡になりますが、過剰な修復反応が起きると盛り上がりや硬さが生じます。クリームはこの修復過程に働きかけることで、傷跡を目立ちにくくします。
傷跡クリームは主に以下のメカニズムで傷跡に作用します。
【保湿・皮膚バリア改善】
傷跡部位は水分保持機能が低下しているため、保湿成分が皮膚のバリア機能を補い、乾燥による硬化や色素沈着の悪化を防ぎます。
【コラーゲン産生の調整】
過剰なコラーゲン産生が盛り上がり(肥厚性瘢痕・ケロイド)の原因となります。一部の外用剤やシリコン製品はコラーゲンの合成・分解バランスを整えることで、傷跡の平坦化に働きます。
【血行促進・炎症抑制】
血行を促進して皮膚の代謝を高めたり、炎症を抑えることで赤みや色素沈着を軽減します。
【遮水・圧迫効果(シリコン製品)】
シリコンジェルやシートは傷跡を密閉して経皮水分蒸散(TEWL)を防ぎ、適度な圧迫によってコラーゲンの過剰産生を抑制する効果があるとされています。
傷跡クリームはすべての傷跡に同じように効くわけではありません。傷跡の種類や状態によって、期待できる効果は大きく異なります。
【効果が期待できる傷跡】
・できて間もない新しい傷跡(赤みが残る時期)
・軽度の色素沈着・赤み
・手術後の縫合跡の初期段階
・軽度の肥厚性瘢痕(平坦化の補助として)
・日常的な擦り傷・切り傷の跡
【効果が期待しにくい傷跡】
・白くなった古い傷跡(白色期の萎縮性瘢痕)
・重度のケロイド(境界を超えて広がるもの)
・陥凹した傷跡(ニキビ跡・水疱瘡跡など)
・深い熱傷(やけど)の跡
・長年経過した傷跡
傷跡が白く萎縮している段階や、凹んでいる傷跡はクリームだけでは改善が難しく、クリニックでの治療が必要になるケースがほとんどです。
傷跡クリームを選ぶ際は、含まれる有効成分・傷跡の種類・市販品か処方品かという3つの軸で検討することが大切です。自分の傷跡の状態に合わないクリームを使い続けても効果が出にくいため、正しい選び方を把握しておきましょう。
傷跡クリームに含まれる主な有効成分と、それぞれの特徴は以下のとおりです。
【ヘパリン類似物質】
保湿力が高く、血行促進・抗炎症作用も持ちます。傷跡の赤みや硬さの改善に有効で、「ヒルドイド」などの商品名で知られる処方薬の主成分です。市販品にも配合されています。
【ビタミンE(トコフェロール)】
抗酸化作用があり、色素沈着の予防・改善や皮膚の保湿に働きます。単独での効果はマイルドですが、他の成分との組み合わせで使われることが多いです。
【シリコン(ジメチコン・シクロメチコン)】
傷跡を覆って水分を保持し、コラーゲンの過剰産生を抑制します。肥厚性瘢痕・ケロイドの予防・改善に一定のエビデンスがある成分です。ジェルやシート状の製品が多くあります。
【オニオンエキス(タマネギ抽出物)】
オニオンエキスは抗炎症作用などが報告されていますが、臨床研究では効果にばらつきがあり、標準治療と比べて明確な優位性は示されていません。補助的な成分として使用されることがあります。
【レチノール(ビタミンA誘導体)】
皮膚のターンオーバーを促進し、色素沈着の改善に働きます。刺激が強い場合もあるため、低濃度のものから使用するのが望ましいです。
傷跡の部位や原因によっても、適したクリームは異なります。
【顔の傷跡・ニキビ跡】
顔は皮膚が薄く敏感なため、刺激の少ない保湿成分・ビタミンC誘導体・シリコンジェルが適しています。色素沈着が残っている場合はトラネキサム酸やビタミンC配合のものも有効です。
【手術跡・縫合跡】
術後は皮膚が閉じてから早期にケアを開始することが重要です。ヘパリン類似物質配合のクリームやシリコンジェルシートが推奨されることが多く、術後の指示に従って使用しましょう。
【やけど(熱傷)跡】
軽度のやけど跡には保湿ケアが有効ですが、深いやけど跡は皮膚構造の損傷が大きいため、クリームだけでは対応が難しいケースがほとんどです。早めに専門医へ相談することをおすすめします。
【肥厚性瘢痕・ケロイド】
盛り上がった傷跡にはシリコンジェル・シートやオニオンエキス配合クリームが使われます。重度の場合はクリームだけでは改善が限界で、注射や手術などの医療的介入が必要になります。
市販の傷跡クリームと皮膚科・美容皮膚科で処方されるクリームは、有効成分の濃度・薬効・カバーできる傷跡の範囲が異なります。
【市販品(一般医薬品・医薬部外品)】
・処方箋なしで購入できる
・有効成分の濃度が比較的低め
・軽度の傷跡
・予防ケアに向いている
・種類が豊富で入手しやすい
【皮膚科・美容皮膚科処方品(医療用医薬品)】
・医師の診断のもと処方される
・有効成分の濃度が高く、薬効が強い ・難治性の傷跡や肥厚性瘢痕にも対応できる
・副作用のリスク管理も含めて医師が判断する
市販品でケアを続けても改善が見られない場合や、傷跡が盛り上がっている・広がっているという場合は、早めにクリニックへ相談するのがおすすめです。
クリニックで処方される傷跡クリームは医療用医薬品に分類され、市販品よりも高い濃度の有効成分が含まれています。医師が傷跡の種類・深さ・経過を診察したうえで、最適な処方を選択します。
【ヘパリン類似物質製剤(ヒルドイドなど)】
保湿・血行促進・抗炎症の3つの作用を持つ、傷跡治療でもっともよく処方されるクリームです。新しい傷跡の赤みや硬さの改善に用いられます。クリーム・ローション・ゲルなど剤形も複数あり、部位に合わせて選択できます。
【ステロイド外用薬】
炎症を強力に抑える作用があり、肥厚性瘢痕やケロイドの赤み・痒みの軽減に使われます。ただし長期使用による皮膚菲薄化や毛細血管拡張などの副作用があるため、医師の指示のもと適切な強さ・期間で使用することが重要です。
【トレチノイン(レチノイン酸)】
ビタミンA誘導体で、皮膚のターンオーバーを強力に促進します。色素沈着の残る傷跡や、ニキビ跡の改善に処方されることがあります。刺激が強いため、使用初期は赤みや皮むけが生じることがあります。
傷跡の状態によっては、クリームによる外用療法だけでは十分な改善が得られないケースがあります。その場合、クリニックでは以下のような治療を単独または組み合わせて行います。
【フラクショナルレーザー・CO₂レーザー】
皮膚に微細な熱刺激を与えてコラーゲン再生を促し、傷跡の凹凸・色・テクスチャーを改善します。陥凹した傷跡や色素沈着に有効です。
【ダーマペン(マイクロニードリング)】
極細針で皮膚に微細な穿孔をつくり、自己修復力を活性化させます。PDLLAや成長因子などとの組み合わせでより高い効果が期待できます。
【ステロイド局所注射】
ケロイド・肥厚性瘢痕に対してステロイドを直接注射し、過剰なコラーゲン産生を抑制して盛り上がりを平坦化させます。
【圧迫療法】
シリコンシートや弾性包帯による継続的な圧迫で、コラーゲンの過剰産生を物理的に抑制する治療法です。外用薬と組み合わせて行われることが多いです。
【手術(瘢痕切除・Z形成術)】
大きな傷跡や機能的な問題がある場合に、形成外科的な手術で傷跡を切除・縫合し直す方法です。
残念ながら、白く萎縮してしまった古い傷跡に市販のクリームが大きな効果を発揮することはほとんどありません。
傷跡クリームは皮膚の修復過程が活発な「新しい傷跡(赤みが残る段階)」に最も効果的で、瘢痕が完成した後は成分が作用しにくくなります。
ただし、クリニックのレーザー治療やダーマペンなどは古い傷跡にも一定の改善効果が期待できます。「もう時間が経っているから諦めていた」という方も、一度専門医に相談してみることをおすすめします。
市販の傷跡クリームの多くは、成人を対象として設計されています。子どもへの使用は製品によって対象年齢が異なり、ステロイド含有製品は小児への使用に注意が必要です。
お子さんの傷跡が気になる場合は、自己判断で市販品を使用するよりも、小児科または皮膚科・形成外科を受診して医師に相談するのが安心です。
傷跡の治療は早期に始めるほど改善しやすいため、気になったら早めにご相談ください。
帝王切開や外科手術の傷跡は、適切なケアを早期から行うことで目立ちにくくすることが可能です。傷口が完全に閉じた後(抜糸・テープ除去後が目安)から、ヘパリン類似物質配合クリームやシリコンジェル・シートを使用することが推奨されています。
ただし、傷跡が盛り上がってきた・赤みが強い・かゆみがあるといった場合はクリームだけでは不十分なことが多く、専門医による評価が必要です。
術後のアフターケアについては、手術を受けた医療機関または美容皮膚科にご相談ください。
イセアクリニックでは、形成外科専門医・皮膚科専門医・傷跡専門医による丁寧なカウンセリングのもと、傷跡の種類・状態・発生からの経過に合わせたオーダーメイドの治療プランをご提案しています。
「市販のクリームを使っても改善しない」「手術跡が気になっている」「昔からある傷跡をどうにかしたい」など、どんな段階のお悩みもお気軽にご相談ください。傷跡治療はもちろん、シミ・しわ・たるみ・ニキビ跡・毛穴の開き・脱毛など美容皮膚科全般のお悩みにも幅広く対応しています。肌に関することであれば何でもご相談ください。